人気ブログランキング | 話題のタグを見る
2006年 07月 20日
25<X<30
25<X<30_b0098790_1233767.jpg

ぼくは、昔からずっと、よいこだった

父親は理解があったし
母親からは溺愛されていたし
妹もぼくのことを尊敬していたみたいだった

小さい頃から、ずっと
運動神経はそんなによくなかったけれど
走るのだけは、はやかったし
何度も何度も、クラス委員をやった
勉強するのも、いやじゃなかった

ぼくはその頃、絵をかくのがすきだった
きれいなものをみたら、すぐ絵がかけるようにと
小さなサイズのスケッチブックを買ってもらった
36色入りのクーピーと、24色のえのぐも
写生大会でなにかの賞ももらった

ともだちも多かった
すきな女の子ができると、いつもその子の方からすきだといわれた

おとなの人たちがいい、という学校にすすんで、
みんながうらやましい、という会社につとめはじめた

昔の話だ。


家族には、もう何年も会ってない

すきになった女の子はみんな、ぼくからはなれていった
「あなたって、おもしろくない人ね」
なにかの約束事みたいに、みんなそのことばを置いていった


ぼくは、スケッチブックを持ち歩かなくなった
きれいなものに目を向けることもなくなった

それは、おとなになったってことなんだろうか

小さい頃、きれいにみえてた世界は彩りをなくした
色とりどりのえのぐやクーピーなんて、必要ないじゃないか

ぼくはじぶんの足元ばかりをみている
すくわれないように
黒のかわぐつと、灰色のアスファルト
ほら、やっぱり


救われない。


じぶんのつまさきの絵でもかいてみようか
きっとじょうずにかける

うまれてはじめて思いついた、おもしろいことのような気がして
ひさしぶりに笑った
ついでに、決めた

きれいな色のランニングシューズを買おう

ぼくは、けっこういい年だけれど、はじまりはじめることは、できるかもしれない

# by another--heaven | 2006-07-20 01:23
2006年 07月 14日
strawberry milk
strawberry milk_b0098790_2203584.jpg

「ふたりでいると、いつも雨だね」
と、彼がいう

「午後からは晴れ間がのぞくでしょう」
テレビの中のきれいなお姉さんが教えてくれた

雨があがる瞬間を、見たことがなかった、と思う

窓際に並んですわって、
雨があがる瞬間を見のがさないようにする
雨のカーテン越しに世界をながめた
紗がかかったみたいで、あいまいできれい

「牛乳が買いにいきたい」

読んでいる小説から顔を上げずに、彼がいった
彼の顔の左はんぶんをながめる

クール。

みとれている間に、雨は、あがっていた


ながぐつをはいて、牛乳を買いにゆく
青色のあじさいが、道端に咲いていた
このあじさいは、まだ子どもだね、という

「ピンク色のは、おとななの?」

恋をしているからね、とおしえてあげたら
彼は、なんにもいわずに、つないでない方の手で、あたまをなでてくれた

ほんとは?

「生えてるところの土が酸性だったら青色の花が咲いて」
「アルカリ性だったら、きみのすきなピンク色の花が咲くよ」
「生育に一番適している土はph6ぐらいだから、むらさき色の花が多いのかもしれないね」

彼は、なんでもよく知っている

ぶじに牛乳を買っておうちに帰ると、
彼は、じぶんの分のカフェオレをいれて
わたしには、ピンク色の飲み物が入ったコップを渡してくれた

なあに?

「おとなの牛乳」

冷たいから一気に飲んだらいけないよ、といわれる
彼がトイレにいっている間に、こっそりぜんぶ飲んでから、ばれないように注ぎ足した


コップを抱えたまま、戻ってきた彼の肩に鼻をこすりつけると、
またでこぴんされた

「ばれてないと思ってるところが、いまいましい」

彼は、なんでもよく知っている


アルカリの雨が、また降りはじめた
あなたがもしいなくなったら、わたしは青く染まるんだろうか

それはまだ、想像できない


紫陽花。

あなたを忘れられずに、いつまでも
むらさき色の花を咲かせるのかもしれない



Another Side

# by another--heaven | 2006-07-14 01:23
2006年 07月 10日
She is friend of mine,
She is friend of mine,_b0098790_216842.jpg

「もてる女の人ってね、隙があるんだって」

さっき喫茶店で読んだアンアンにかいてたの、と友達はいう

そういう彼女も、もてるかもてないかでいったら
たぶん、もてる部類に入ると思うんだけど

じぶんでアンアンを買うタイプじゃないのは、まちがいない

思いながら、隙ってどういうこと?と、聞くと、彼女はんんん、とうなった

「たぶんね、つけいる隙ってことかな」
「おれ、もしかしたらいけるかも、みたいな」
「こいつおれのこと好きなのかな、って思わせるのかな」

よく、わかんない、と彼女は両手でコップを抱えて長いなまえの甘いお酒を飲んだ

たまに思わされてるよ、とぼくは心の中でつぶやいて、苦笑いをした

「それ、なに飲んでるの?」
水だよ、といってみる

「ちょっとちょうだい」
ぼくの返事を待たずに、彼女はスポーツ飲料のCMみたいにごくごくとのどを鳴らして
ウォッカトニックを丸々ぜんぶ飲み干してしまうと
水だね、と14時の太陽みたいに笑った

ウォッカトニックのCMがあれば、きっとオファーがくるだろう
もしあれば、の話だけれど


そのようにして、散々お水をめされたあと
コーヒーがのみたい、と友達はいった

「ちゃんとコーヒーの味がするヘーゼルナッツラテが、のみたい」

もうとっくに日は変わってるけど、というと、彼女はまた笑って、
時間だいじょうぶ?と確認してから、ついてこいといわんばかりに
先に立って歩き出した

しばらく歩くと、深い夜のほとりに、ほんやりとした照明がともっていた
異空間みたいだ、というと、
そういうの、すきだよ、と彼女がいった

幅のせまい階段を上がって、秘密基地みたいな入り口を抜けるワープ航法をへて
おしゃれで小さなカフェにたどりついた
ぶじにちゃんとしたヘーゼルナッツラテを飲みながら、
彼女はかげった月みたいにひそやかにしか、笑わなかった

ぼくは彼女の顔ばかりを見ていた

彼女は窓ガラスごしの遠くをみていた


きみは、ぼくのことをどう思っているんだろう?

きっとこの後、ここを出たら、いつもの交差点でわかれて、
きみはきちんとおうちへひとりで帰る

ぼくの友達は、たぶんじゃなくて、もてる女の子なんだと思う

ぼくも、彼女のまねをして、窓ガラスごしに遠くをみながら、考えてみた
でも、きみはぜんぜんちがう考え事をしているんだろう
むずかしそうな顔をしているぼくに気づいて、彼女は笑っていう

「それ、なに飲んでるの?」

きみは、大事なことはいつもおしえてくれない


交差点で、ぼくは、きみを引きとめてみるべきだろうか

# by another--heaven | 2006-07-10 02:14
2006年 07月 10日
Rainning
 Rainning_b0098790_2311408.jpg

彼女に会おうと思うと、いつも雨が降った

昔の恋人は、雨が降ると決して外出しなかった
「だって、くつが汚れるじゃない」
だから、雨が降るたびぼくは憂鬱になったり、めんどくさくなったり、したものだ

別に比べるわけじゃないけれど、彼女はそんなこといわなかった

「ねえ、ながぐつを、買ったの」
笑いながらそういって、いつかの雨の日、
きいろいながぐつを、見せてくれた
色違いで、ぼくの分もとなりに並んでいた

ぼくも雨の日が少しだけ、すきになった

ふたりでいると、いつも雨だね、というと、
彼女はぴょこん、とはねおきてうれしそうにいう
「わたしたち、地球にとてもやさしいね」

いつか、世界中が砂漠になったら、ふたりで世界一周をしよう、と約束した


いま、雨が降ると、ぼくは昔の恋人とはまた別の理由で
憂鬱になる
きみは今頃、別のだれかとまたおそろいで
ながぐつを買ったのかもしれない

ふたりでいると、いつも雨が降ったけれど
別々になっても、雨は降るものなんだね

ばかみたいだけれど
ぼくは、世界が砂漠になることを毎日願っている


緑色のながぐつが、ひとりで足踏みをしていた

# by another--heaven | 2006-07-10 00:46
2006年 05月 31日
2minutes
2minutes_b0098790_2313943.jpg

目をさますと
アナログ式のめざまし時計は、5時37分をさしていた

それが、この世界にふたつあるうちの、どっちの5時37分なのか
わからない

わからなくても、いいし

二度寝をしてみようかと、思う
次に目をあけたら、明るくなるか、暗くなるか、しているかもしれない
でもまた、12時間後に目がさめそうで、やめた

まだ起きたときの姿勢のまんまだ
ねむったときと、なにひとつ変わっていない
散々寝返りをうったあとで、また元通りの形に戻ったのかもしれない

ねむっている間に、なにかが起こっていたとして、認識してないだけなんだろうか

絶えず、なにかは起こっているのだ
知ってる
じぶんにぜんぜん関係ないみたいだから
知らないふりをする

こうしている間にも、

季節はうつりかわったり
だれかが泣いていたり
月が欠けたり
どこかで恋がはじまっていたり
海のみずの量が増えたり
何人かのひとが死んだり
いくつかの命がうまれたり
あの子がわらったり

して、いるんだろう


これからはじまるのが、夜だといい
またねむるいいわけになるから

5時39分。

世界は、回っている
じぶんを置いて


いまからはじまるのは、朝かもしれない

だとしたら
あるいは

# by another--heaven | 2006-05-31 23:13